航空機操縦中に意外とよく起きる空間識失調

2019年11月4日航空エースコンバット,パイロット

当たり前に起こる空間識失調

普通に生活していて空間識失調、つまり方向感覚を失って自分の姿勢がわからなくなるという事はほとんど無いでしょう。

しかし、航空機では違います。条件がそろえばパイロット誰でも空間識失調になり姿勢がわからなくなる可能性があります。

特にIMC(計器気象状態、とても悪い天気)下での飛行時は雲中で何も見えない状態でタービュランス(風のやばいやつ)がひどかったりすると自分の姿勢の体感と実際の計器の指示が全然違うという状況になりやすいです。

 

バーティゴという言葉を航空機を好きな人なら聞いた事があると思います。メーデー!などのテレビ番組でも出てきますし、実際バーティゴが原因の事故もかなりの件数起きています。

事故の原因と聞くとすごい大変な状況の時にだけ急に起きて特異な現象だからパイロットが対応しきれないのではないかという印象を持つ人も多いと思います。

 

実際僕もパイロットになるまではバーティゴは滅多に起きないと思っていました。

しかし、実際に航空機を操縦しているとバーティゴに入る事はそれなりにあります。別に珍しい事ではありません。計器飛行中などは特に錯覚に陥りやすいように感じます。

今回は様々な空間識失調をまとめます。

 

空間識失調の原因

空間識失調が起きる原因はいくつかあります。大きく分けると下の三つになります。

  • 視覚情報の錯覚
  • Gの感覚誤認
  • 平衡感覚のずれ

空間識失調はこれらの原因一つだけで起きる事もあれば複数の原因が合わさって起きる事もあります。

これらのうち、よく起きる空間識失調を紹介します。

視覚情報の錯覚

これは特徴的な景色が原因で起きる錯覚です。

たとえば雲の形や陸地、海岸線、地上の灯火など、様々な視覚的錯覚の原因があります。

そのなかでも

  • 水平線誤認
  • 光源誤認
  • 垂直誤認

の三つはよく起きますし実際に僕も体験しました。

それぞれの錯覚について解説します。

水平線誤認

これは外景を中心としたVFRフライトを行っているときに起きやすい錯覚です。

水平線が雲で隠れて見えないときによく起きます。雲の高さというのは一様ではなく、場所によって高かったり低かったりします。

しかし、人間の目はその景色を無理矢理水平だと思い込もうとするのでおかしくなります。

目の前の水平線?が水平になるようにするとバンクをとってしまうという事があります。

これは計器飛行の訓練をして姿勢指示器の判読が早くなるとほとんど起きなくなります。

光源誤認錯覚

これは主にナイトフライトで起こる錯覚です。

星空と漁船の漁火を間違えてしまったりというのが一般的だと思います。実際僕も漁火と星空がよくわからなくなったことがあります。

様々な本に漁火と星空の話が書いてありますが、実際に漁船というのはいっぱい出ているので珍しい錯覚ではありません。

また、飛行高度が高いと漁船かどうか判別ができなくなりました。これは本当に上下がわからなくなってかなり怖かったです。

この他にもまばらすぎる家屋の明かりなども星空に似ていたように感じます。

垂直誤認

これは雲中飛行で起きました。

人間の感覚は光の一番明るい場所を真上だと思うようにできているらしく、太陽そのものが見えていないときに明るい方を頭に持ってこようとしてしまいます。

当然雲中で計器飛行をしているわけですが、自分の水平感覚と計器がずれてバーティゴに入りました。

それにしても人間の感覚は雑ですね。

Gの誤認

Gの感覚もあてにならない物の一つです。

しかし、Gだけで錯覚に陥る事はほぼなく、だいたい平衡感覚がずれて空間識失調に陥るので次の平衡感覚のところで解説します。

平衡感覚のずれ

これはよく起きる錯覚の一つだと言えます。

人間の三半規管は定常旋回をしているといつのまにか自分がロールを入れいている事がわからなくなります。

計器飛行中に旋回し続けていて、かつタービュランスに遭遇するとその時のバンク角がわからなくなります。

この錯覚を簡単に体験する方法があります。

 

他にもリーン錯覚というものもあります。

人間の三半規管が検知できないくらいゆっくりとロールを入れると、自分は水平飛行している気でいるのに機体は旋回しているという事があります。

これも風などで1度程度のバンクが入ってしまっているときに起こります。

計器飛行で進路を1度単位で調整したいときはバンクも1度や2度程度しか入れません。この程度のバンクは風の影響で勝手に入ってしまう事があるのですが、この時に自分の体の感覚と実際のバンクがずれてしまいます。

この錯覚は僕もよく体感します。計器飛行していて常に計器で飛んでいるで問題は無いのですが変な感じはします。

 

コリオリ錯覚

これもよく起きます。急旋回中に頭を大きく動かすと目が回ります。

これを簡単に体験できる方法があるのでぜひ試してみてください。

まず普通に回転する椅子に座ってぐるぐる回ります。

回転を続けながら上や下を見ると一発で気分が悪くなると思います。

これは他の誤認系の空間識失調とは少し違っていて、単純に気持ち悪くなる感じです。

 

 

空間識失調になったときの対応

まず計器を信じる事です。

昔教えてもらった言葉に「フォースを信じるな、計器を信じろ」というものがあります。

スターウォーズの世界ではフォースを信じて計器を無視する場面がありますが、バーティゴに入った時の対応ではフォース(自分の感覚)を信じてはいけません。

まず計器です。計器を信じれるようになるためには計器飛行の技術を身につけるのがいいと考えます。

 

バーティゴに入る事自体は誰にでも起こりうることです。特に三半規管が敏感な人ほど入りやすいと言われています。

まずはどのような錯覚があるのか理解して、いざというときに備えるのが大事です。

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